こんな経験はありませんか?
- 増分借入利子率として何を使えばいいかわからず、結果として根拠が薄い数字を使って監査で指摘された
- リース条件が変更になったとき、既存のリース負債をどう修正すればいいか迷った
- 初期直接コストとして計上すべきものと費用処理すべきものの区別がつかなかった
この記事でわかること
- 増分借入利子率の算定方法と実務上の考え方
- 初期直接コストの範囲と使用権資産への算入方法
- リース条件改訂(リース・モディフィケーション)の3つの処理方法
対象読者
- IFRS適用企業でリース負債・使用権資産の測定を担当する経理・財務担当者
- 増分借入利子率の算定に悩んでいる財務担当者
- リース条件の変更が多い業種(不動産・製造・小売)の経理担当者
リース負債の当初測定
リース負債はリース開始日に未払リース料の現在価値で測定します(IFRS 16.26)。
リース負債に含めるリース料
| 含めるもの | 含めないもの |
|---|---|
| 固定リース料(リース・インセンティブを控除後) | 変動リース料(指数・レートに基づかないもの) |
| 実質的な固定リース料 | サービス部分のコスト |
| 指数またはレートに基づく変動リース料(リース開始日時点の指数・レートを使用) | |
| 残価保証に基づく支払見込額 | |
| 購入オプション行使価格(行使が合理的に確実な場合) | |
| 解約ペナルティ(解約オプション行使がリース期間に反映されている場合) |
実質的な固定リース料とは:
形式上は変動するように見えるが、実質的には固定されているリース料です。例えば、リース料が「売上高の3%、ただし最低月額50万円」と設定されている場合、最低保証額の50万円は実質的な固定リース料として扱います。
割引率:増分借入利子率の算定
割引率の優先順位
リース負債の現在価値計算に使用する割引率は以下の優先順位で決定します。
① リースの計算利子率(Rate implicit in the lease)
リース料と原資産の公正価値の現在価値を等しくする割引率です。貸手側の情報(残価保証額・残価オプション等)が必要なため、借手が算定することは実務上ほぼ不可能です。
② 増分借入利子率(Incremental Borrowing Rate:IBR)
借手が類似の担保・期間・経済環境のもとで、リース開始日に借入を行う場合に支払うであろい金利です。実務上はほとんどのケースでIBRを使用します。
増分借入利子率の算定方法
IBRの算定は実務上最も難しい論点の一つです。以下の要素を考慮して算定します。
①無リスク金利(ベースレート)
リース期間に応じた国債利回りまたはスワップレートを基準とします。例えば5年のリースであれば5年物国債の利回りをベースとします。
②信用スプレッド
借手固有の信用リスクを反映した上乗せ金利です。借手の格付け・財務状況・業種等を考慮します。格付けがある企業は市場で観察される同格付けの社債スプレッドを参考にできます。格付けがない場合は、銀行との借入条件や同業他社の市場データを参照します。
③担保調整
IBRはリース資産を担保とした借入コストを反映する必要があります。担保なし借入のレートに対して、担保ありの場合は一般的に低くなるため下方調整が必要です。
④通貨・経済環境
リース料の通貨に合わせた金利を使用します。外貨建てリースの場合は、当該通貨の金利環境を反映した IBRを使用します。
実務上の算定アプローチ:
多くの企業では以下のいずれかのアプローチを採用しています。
| アプローチ | 内容 | 適用場面 |
|---|---|---|
| 実際借入レート法 | 同時期に実際に行った借入の金利を使用 | 類似条件の借入が存在する場合 |
| 市場データ法 | 同格付け・同期間の社債利回りを参照 | 格付けのある上場企業 |
| モデル構築法 | ベースレート+信用スプレッド+担保調整で構築 | 上記が困難な場合 |
IBRはリースごとに算定することが原則ですが、ポートフォリオ適用と組み合わせて類似条件のリースグループに同一のIBRを適用することも認められます。
使用権資産の当初測定
使用権資産はリース開始日に以下の合計額で測定します(IFRS 16.24)。
使用権資産 = ① リース負債の当初測定額
+ ② リース開始日以前の前払リース料
+ ③ 初期直接コスト
+ ④ 原状回復コストの見積額
- ⑤ 受領済みのリースインセンティブ
②前払リース料
リース開始日以前に支払ったリース料(デポジットを除く)は使用権資産に加算します。
③初期直接コスト
初期直接コストとは、リースの交渉・締結に直接起因する増分コストです(IFRS 16 Appendix A)。
初期直接コストに含まれるもの:
- 仲介手数料・エージェントフィー
- 契約交渉に要した法務費用(外部弁護士費用)
- リース契約の条件評価に要した直接費用
初期直接コストに含まれないもの:
- 社内の法務部門・経理部門の人件費(増分コストではないため)
- 一般管理費の配賦額
- 不成立に終わったリース交渉のコスト
- 既存リースの修正前に発生した費用
④原状回復コスト
リース終了時に原状回復義務がある場合、IAS 37に従って引当金を認識し、同額を使用権資産に加算します。
原状回復コストの見積もりは以下を考慮します。
- 現時点の原状回復工事の見積金額
- リース期間分の物価上昇(インフレ調整)
- 割引率(IAS 37では税引前のリスクフリーレートを使用)
⑤リースインセンティブ
貸手から受領した入居促進費・フィットアウト補助金等のリースインセンティブは使用権資産から控除します。
リース負債とリース資産の事後測定
リース負債の事後測定
リース負債は実効金利法で利息を計上しながら、リース料支払により残高を減少させます。
仕訳イメージ(月次):
(借)利息費用 ×× (貸)リース負債 ××
(借)リース負債 ×× (貸)現金 ××
使用権資産の事後測定
使用権資産は取得原価モデルで測定し、リース期間(または耐用年数のうち短い方)にわたって定額法で減価償却します。
(借)減価償却費 ×× (貸)使用権資産(減価償却累計額)××
耐用年数の決定:
- 所有権移転またはbargain purchase optionがある場合:原資産の耐用年数
- 上記以外:リース期間
リース条件改訂(リース・モディフィケーション)
リースの条件が変更された場合、IFRS 16は変更の内容によって3つの異なる処理を求めます(IFRS 16.44〜46)。
処理①:新たな別個のリースとして処理
以下の両方を満たす場合、修正を新たな別個のリースとして処理します。
- 1つ以上の原資産の使用権が追加されることでリースの範囲が拡大した
- リースの対価が、追加された使用権の独立価格に見合う増額となっている
例: 賃借中のオフィスに隣接するスペースを追加で借りる場合で、追加スペースの賃料が市場価格と一致している場合。
→ 既存リースはそのまま継続。追加スペースを新たなリースとして別途認識。
処理②:既存リースの条件変更として処理(再測定)
処理①以外の場合、既存リースの条件変更として処理します。具体的には以下のいずれかに該当します。
ケースA:リースの範囲が縮小する変更 リース期間の短縮または使用権の一部放棄。リース負債・使用権資産を縮小分に相当する割合で減額し、差額を損益認識します。
ケースB:その他の変更(リースの範囲変更を伴わないもの) リース料の増減・割引率の変更等。修正日時点の修正IBRでリース負債を再測定し、対応する使用権資産を調整します。
再測定に使用する割引率
条件変更時のリース負債の再測定には、変更日時点の修正IBRを使用します(新たな別個のリースの場合は新たなIBRを使用)。
実務上よくある論点
変動リース料のリース負債への影響
指数またはレートに基づく変動リース料(例:CPI連動型リース料)は、リース負債の再測定事由が生じた時点で最新の指数・レートに基づいて再計算します。定期的な指数見直し条項がある場合、見直し時点でリース負債・使用権資産を調整します。
指数・レートに基づかない変動リース料(売上連動型リース料等)はリース負債に含めず、発生した期の費用として処理します。
割引率の変更
固定金利型リースでは事後的に割引率を変更しません。変動金利型リースでは金利改訂のたびにリース負債を再測定します。
J-GAAPとの主な相違点
| 論点 | IFRS 16 | 日本基準 |
|---|---|---|
| 増分借入利子率 | 詳細な算定が必要 | 算定基準が簡略的 |
| 初期直接コスト | 増分コストのみ資産計上 | 同様 |
| 原状回復コスト | 使用権資産に加算 | 有形固定資産に準じた処理 |
| リース条件改訂 | 3つの処理方法 | 処理方法の規定が限定的 |
まとめ
リース負債と使用権資産の測定で押さえるべきポイントは以下の通りです。
- 増分借入利子率はリース期間・通貨・担保・信用リスクを考慮して算定する。算定根拠の文書化が監査対応上不可欠
- 初期直接コストはリース交渉・締結に直接起因する増分コストのみ。社内人件費や一般管理費は含めない
- 原状回復コストはIAS 37で引当金を認識し、同額を使用権資産に加算する
- リース条件改訂は「新たな別個のリース」か「既存リースの変更」かの判断が出発点。条件変更時の割引率は変更日時点の修正IBRを使用する
次回は貸手の会計処理を解説します。

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